「謎の蝶」「日本産最稀種」。1970年に生態が解明されるまではこのように呼ばれ、小学生の私にとっては、憧れというよりは別世界の蝶であった。この蝶が採れる京都北山の杉峠では大変な賑わいだったそうだが、食樹がウラジロガシと判明してからは各所で産地が見つかり、蝶自体は思われていたほど珍しいものではなくなった。それでも成虫を野外で採集することは今もなお難しく、その裏面の独特のVサインと相まって、現在でもやはりスターであることは間違いない。何よりも昆虫少年の頃に「謎の蝶」と刷り込まれた私の世代にとってはヒサマツという言葉の重みは特別なものである。発生地からかなり離れた場所で活動するという変わった生態があり、これが食樹の解明を困難にした一因でもある。「ヒサマツ」とは最初の発見地、鳥取県の久松山(きゅうしょうざん)の誤読に因んだもの。